不動産仲介法務サービス

根拠の明示

東京不動産売却維新法務では、お客様との取引において、お客様の権利に一定の影響を及ぼす場合、必ず根拠を示します

根拠を示さずに何かをさせられるのは、今の時代に適さないと考えます。

不動産法務の専門家として、十分かつ適切な説明責任を果たしたうえで、お客様に求めるのが当社の方針です。

 

たとえば、以下のような場合には、条数まで含め法的根拠を明示します。

  • 媒介契約の締結→宅地建物取引業法
  • 不動産売買契約における各特約など→民法
  • 農地転用など→農業法
  • 本人確認情報の提供を求める場合→犯罪収益移転防止法

犯罪収益移転防止法(犯罪による収益の移転防止に関する法律)

複数の宅建業者が関与する場合

宅地建物取引業者は、犯罪収益移転防止法において、売主・買主の取引時確認(本人確認など)をする義務が定められています。

複数の宅建業者が取引に関与する場合、すべての宅建業者において売主・買主双方の取引時確認をすべき義務があると、勘違いしている業者が時々いますので、以下に注意喚起します。

 

「不動産の売主と買主の双方にそれぞれ異なる媒介業者が介在する場合には、売主側の媒介業者は売主のみについて、買主側の媒介業者は買主のみについて、取引時確認並びに確認記録の作成及び保存の措置をとれば足りる」

【根拠】宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック【第3版】Q28(40ページ) 参考:Q2(34ページ)

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この点につき、明文化された根拠法令はありません。※

しかし、国土交通省不動産業課の担当者に確認すると、従前よりこのような運用がなされていると説明されます。

最近では、同課に対し同法に関する法解釈の照会をすると、同課の協力のもと作成された上記ハンドブックの記載内容に基づいて説明がなされるなど、同ハンドブックは事実上の通達のように扱われています。

※その理由は、同法はもともと銀行業を規制する本人確認法から派生したものであり、複数の業者が関与する形態を想定していないからです。 

 

よって、同ハンドブックを熟読して、お客様の権利を侵害しないよう努めましょう。

初めて顔を合わせた業者が媒介依頼を受けていないお客様について、同法に基づく取引時確認をするのは、お客様にとっては不快でしかないことが多いです。

相手方媒介業者が同法に基づく取引時確認をしていることを確認のうえ、当該媒介業者がそのお客様の取引時確認をしているとの記録を残しておけば、それで足ります。

 

ただし、当社でも、取引の安全を確保する目的で、媒介依頼を受けていないお客様の本人確認をする場合はありますが、必ずその目的を明示します。

この場合、犯罪収益移転防止法に基づくものではないため、同法の規定による本人確認書類の番号の記録などは、お客様の任意の同意がない限りいたしません。

身分証明書(本人確認書類)の写しについて

東京不動産売却維新法務では、同法に基づき、適正に取引時確認を行っていますが、お客様の権利を侵害しないため、通常は法的義務のないことをお客様に求めません。

 

通常の対面取引において、身分証明書の写し(コピー)を当然のように要求する業者もありますが、これは詐欺(欺罔させ財物を詐取)などに該当し得る違法行為です。

お客様が法的義務のないことを承知したうえで、真に任意で(自らの自由意思に基づいて)身分証明書の写しを提出するのであれば、違法ではありません。

しかし、多くの場合、不勉強のせいなのか、同法に基づく本人確認を理由として、あたかも法的義務があるかのような要求の仕方をする業者があるのが実情です。

詐欺などに該当する云々の議論はともかくとして、身分証明書には、同法が宅建業者に記録を義務づける項目以外に、多くの個人情報が記載されているため、それらを合理的理由なく取得することは、お客様の個人情報を保護する観点から慎むべきです。

 

当社でも身分証明書の写しを求めることはありますが、その場合は、その合理的必要性を明示したうえ、お客様がそれに応じる法的義務はないことも説明します。

 

以下に、根拠条文を示します。

同法4条1項において宅建業者に義務付けられている取引時確認の具体的方法は、同法施行規則6条ないし7条において定められています。

当該施行規則の定めにおいては、本人確認書類について「提示」なる文言が使われており、原本またはその写しにつき「提出」なる文言は一切使われていません。

「提示」と「提出」とでは、意味が異なることにご注意ください。

よって、同法に基づいて宅建業者が本人確認書類の写しの提出を求めることはできません。

 

なお、宅建業者が同法の対象となっている根拠は、同法2条2項40号です。

決済時に通常立ち会う司法書士もその対象となっています。(同法2条2項44号

 

上記ハンドブックの該当箇所についても、念のため記載しておきます。

 「本人確認書類の写しの交付を求め、保管しておくことは、法律上の義務ではありません。運転免許証を提示してもらって、運転免許証の番号を記録しておくなどをもって足ります(規則20 条1 項11 号)。なお、写しを受領し、確認記録に添付すれば、その写しに記載されている事項の確認記録への記載は省略することができます(規則20 条2 項)。

なお、顧客の了承が得られないときには、顧客の意思に反して写しを取ることはできません。」

【根拠】宅地建物取引業における犯罪収益移転防止のためのハンドブック【第3版】Q33(41ページ)


所有権移転登記時の司法書士報酬

売主が司法書士を指定する場合

売主が宅建業者の場合や、売買対象物件に抵当権がついている場合、しばしば売主側が司法書士を指定する特約を求めます。

しかし、この特約の内容では、所有権移転登記に際し、買主は売主の指定する司法書士に委任するしかなく、その報酬は言い値となってしまいます。

原則として、抵当権抹消や売主の登記住所変更にかかる費用は売主負担ですが、所有権移転登記にかかる費用は買主負担となるため、問題となるのです。

司法書士報酬は、現在、自由化されているため、理論上、いくらにしてもよいこととなり、この特約では買主の利益を大きく損ねる可能性があります。

 

よって、東京不動産売却維新法務の不動産仲介法務サービスでは、売主・買主双方の利益のバランスを考慮して、トラブルを事前に防止する観点から、以下のような特約の内容とします。

  1. 所有権移転登記申請手続きにおいて、売主は、司法書士を指定することができるものとする。ただし、買主が売主とは異なる司法書士を指定すること又は本人申請をすることを妨げないものとする。
  2. 前項但し書きの場合、協議により共同申請又は買主の指定した司法書士を復代理人として当該登記申請を行うものとし、売主が指定する司法書士に対する報酬は売主の負担とする。

本来、費用負担する買主が司法書士を選任するのが筋であるため、上記特約は売主・買主双方にとって非常にバランスのとれた内容になっていると考えます。

売主・買主がそれぞれ異なる司法書士を選任するのは、俗に京都方式と呼ばれており、関東では一般的ではありませんが、関西ではよく知られた方式のようです。

もちろん、売主の指定する司法書士が適正な報酬額を買主に提示した場合、買主がこれに応じれば、売主・買主が同一の司法書士を選任することとなります。

また、最近は、パソコンで容易に登記申請書類を作成でき、法務局も申請書の書き方を親切に教えてくれることから、本人申請がたやすくなっており、本人申請を選択される方も増えてきています。

 

このように売主・買主双方の利益のバランスを考慮した不動産仲介をしている宅建業者はあまり存在しないのが現実です。

大手でも、なかなかここまではやりません。


区分所有法(建物の区分所有等に関する法律)

東京不動産売却維新法務では、通常は区分所有建物(マンション)を扱いませんが、区分所有の性質・問題点について、法的観点から記します。

区分所有は、以下の点などにおいて、所有権が大きな制約を受けます。 

  • 敷地の処分*
  • 共用部分の改変**
  • 管理費等(管理費・修繕積立金)未納の場合債務名義不要で競売申立可能***

【根拠】

*区分所有法22条(敷地分離処分の禁止)「区分所有者は、その有する専有部分とその専有部分に係る敷地利用権とを分離して処分することができない。」

**区分所有法17条(共用部分の変更)「共用部分の変更(その形状又は効用の著しい変更を伴わないものを除く。)は、区分所有者及び議決権の各四分の三以上の多数による集会の決議で決する。」

***区分所有法7条(先取特権)「区分所有者は、共用部分、建物の敷地若しくは共用部分以外の建物の附属施設につき他の区分所有者に対して有する債権又は規約若しくは集会の決議に基づき他の区分所有者に対して有する債権について、債務者の区分所有権(共用部分に関する権利及び敷地利用権を含む。)及び建物に備え付けた動産の上に先取特権を有する。管理者又は管理組合法人がその職務又は業務を行うにつき区分所有者に対して有する債権についても、同様とする。」

通常は、区分所有法18条に基づく訴訟提起により債務名義(確定判決や和解調書)を取得してからの強制執行か、区分所有法59条に基づく競売請求により勝訴判決を得てからの競売申立となりますが、これらの手続きを経なくても、管理費等は一般先取特権(民法306条1号)にあたる(学説による)ため、先取特権(民法303条)を実行すればいきなり当該区分所有建物を差押し、競売申立をすることができます。

 

上記***は、理解するのが少し難しいかもしれません。

実は、管理費等を支払わなければならないことは、銀行にローン返済しなければならないことと、法的には似た性質なのです。

管理費等の未納の場合、抵当権等所有権の制約となる登記がなされていなくても、抵当権実行と同様に先取特権という担保権が実行され、裁判を経ずしていきなり差押さえられ得るのです。

先取特権は、抵当権のように明らかに表示されていない点で、とても恐ろしい担保権なのです。

 

つまり、区分所有マンションにおいては、ローン返済が終わったとき、真の意味で100%所有権を獲得したと考えても、実際は管理組合によっていきなり差押さえられ得る不安定な所有権なのです。

その趣旨としては、区分所有は、みんなで責任を分かち合うとともに、基本的には多数決で決めたことには従ってもらいますよ、ということにあります。

多くのマンション所有者は、この事実を知らないのが実情でしょう。

マンション売買に際し、ここまでの法解釈の説明が義務付けられていないことも、その一因だと思います。

そもそも、普通の不動産会社には、法的素養が乏しいので、お客様に十分な説明をすることは難しいでしょう。

 

ローン返済中においては、抵当権に劣後する先取特権の実行は、通常考えにくいですが、ローン完済後やそもそも抵当権が設定されていない場合は十分お気をつけください。

これから、数十年前に建設されたマンションの高齢化が社会問題になっていきます。

それに伴い、修繕費の値上げが見込まれますが、管理組合と異なる意見の場合、決議された値上げに応じて支払わないと、先取特権の実行による差押えがあり得ます。